
この行き先は二通り。ゴミになるか、資源になるか。
日本で一般家庭から出される廃食油は、年間で約20万トン。
これは、東京ドーム約177杯分だ。
このほとんどが、自然環境にゴミとして廃棄されている。
生活排水として河川や海洋に流れ込んだものは、下水処理にコストをかけるとともに、水質汚濁の原因となる。
また、固めたり紙に含ませて廃棄されるゴミは、焼却や埋め立て処理により環境負荷をかけている。
莫大な量の廃棄物であるにも関わらず、見過ごされてきた使用済みの天ぷら油。
これを、私達の貴重な資源、「油田」と捉えて再利用し有効活用しているのが、「TOKYO油田」(株式会社ユーズ)である。
同社では、天ぷら油などの廃食油を回収し、独自に開発したバイオディーゼル燃料VDFに生まれ変わらせる取り組みを行うと共に、油回収を媒介にした資源循環型社会の創造事業を行っている。
使用済み油の回収には3つのメリットがある。
1つめは、ゴミの廃棄量を減らせること。
2つめは、VDFという新しい資源エネルギーを生み出せること。
これがカーボン・オフセットや大気汚染抑制に貢献するクリーンなエネルギーになる。
3つめは、この油回収の取り組みのシステムが資源循環型社会を提唱し、地域密着型な方法が地域のコミュニティの人と人とのつながりを強められること。

順番に見ていこう。
油を再利用すればゴミの廃棄量が減らせることは明白であるということで、二つ目のVDFの紹介から入りたい。
VDF(ベジタブル・ディーゼル・ヒューエル)は、1993年に(株
)ユーズと提携している染谷商店により独自に開発されたもの。
廃食油(植物油)のディーゼル燃料化としては世界初にあたる。
VDFのような植物油を原料としたディーゼル燃料は、一般的にバイオディーゼル燃料(BDF:バイオ・ディーゼル・ヒューエル)と呼ばれ、欧米諸国を中心に次世代のクリーンなエネルギーとして注目されている。
京都議定書では再生可能エネルギーの‘カーボン・ニュートラル’に位置付けられており、原料の植物が成長過程で光合成によってCO2を吸収していることから、二酸化炭素を新たに発生させないという考え方だ。
1リットルの廃食油あたり、0.95リットルのVDFが作られ、これには回収・精製コストを差し引いても2.08キロ/リットルものCO2削減効果がある。
VDFは、一度食用に使った油を原料にしているため、初めから燃料として植物から作るよりも無駄がない。
車を改造する必要がなく、すべてのディーゼル社を軽油と同様に走らせることができるのが特徴だが、従来の軽油と比べてもいくつかのアドバンテージが
ある。
一つは、硫黄酸化物を発生させない点だ。
これは化石燃料を使用する限り必ず生じてしまうやっかいな物資で、大気汚染や酸性雨の主な原因としてよく知られている。
二つめは、黒煙の量が軽油と比べて二分の一以下であること。
黒煙は呼吸器障害を生み出す原因だ。
そして、燃費や価格は変わらず、引火点温度
の安全性はより高いため、簡単に安全にVDFで車を走らせることができる。
■「人災」の体験と油への着眼
株式会社ユーズ代表、染谷ゆみ氏がこの構想を思い付いたのは1992年暮れ、22歳の時だった。
染谷氏は、高校卒業後、まだ中国への一般旅行客の渡航が解禁になって間もない頃、チベットからネパールへヒマラヤ山脈を越える旅に出た。
その時に土砂災害が起こり、ぎりぎりのところで
被害に遭わなかったものの、「これは天災ではなくて人災だ」と地元の人から知りショックを受け、環境問題に強い関心を持つ転換点となった。
当時の日本はバブル全盛期で、拝金主義・大量消費のムードの真っただ中。
現在日本で多発している土砂災害も発生メカニズムはおろか注目もされておらず、環境問題への意識はほとんどなかった。
「消費を美徳」とする価値観が蔓延する中、環境ビジネスという概念はおろか、NPOもなく、環境活動は現在と比べそれほど活発ではなかった。
どうにかして環境に貢献する仕事ができないか、と試行錯誤が続いた。
ある日、実家の油の工場(染谷商店)を手伝っている時に、彼女はふとひらめいた。
「油から環境を改善することができる!」と。
そして、仲間を募り、徐々に取り組みを拡大し、1997年に染谷商店から独立、株式会社ユーズを立ち上げた。
環境ビジネスが理解されにくかったこともあり、これまでの事業の道のりは必ずしもいつも順調ではなかったが、設立の折り返し地点からは完全黒字化し、安定した経営が続いている。
今までの事業の中心は、油の回収や油の原料販売だった。
だが、設立10周年を迎えたユーズは今、「資源循環型社会づくり」にその取り組みの中心をシフトし、事業の幅に広がりを見せ始めている。
同社が仕掛けるのは、リサイクルの取り組みが継続して行われるネットワークが広がっていくようなシステムの提供だ。
これが、ユーズの事業の3つめのポイントである。
たとえば、「TOKYO油田ecoマネー」では、油を提供するとecoマネーをもらうことができ、VDFや森との交換、あるいは地域マネーの金券として使用することができる。
昨月9月に始動した「カーボン・オフセット認定証」、「CO2削減証書」発行サービスでは、CO2削減量を明確に掲示する。
どちらも、油回収により環境改善に貢献し
ているという流れを‘見える化’することにより、参加者のモチベーションを高め、回収拡大を目指す。
事業者にとって認定証の交付はPRになると共に
、消費者の注目を得ることによって店自体の向上にもつながる。
目下の目標は、「TOKYO油田2017」プロジェクトの達成である。
天ぷら油の多くが消費される大都市東京を「東京油田」と命名したもので、2017年までに東京都で家庭や事業者が使った油をすべて回収し、バイオディーゼルなどの再資源エネルギーに転換することを目指す。
■「TOKYO油田」から「ご当地油田」へ ~使用済み油が新たな街の潤滑油に
これらのシステムの土台としてユーズが大事にする考えが、“地域密着型”による人と人とのつながりだ。
「人と人とのつながりこそが循環型社会の基本であり、これがあれば、たとえシステムが切れてもそれは人のつながりにより回復できる」と染谷社長は言う。
この“地域密着型”の考えをベースに日本全体規模での大油田発掘を目論むのが、「ご当地油田」プロジェクトだ。
同社が培ってきたノウハウを全国各地域に販売・供与すると共にサポート事業を行うことによって、ネットワークとパートナーシップの拡大を狙う取り組みを始めている。
地域に根付いた企業や団体、NPOが中心になって使用済み天ぷらの循環を運営することによって、人と人とのつながりが強まることを目指す。
これには地域の問題解決の様々な可能性さえも眠っている。
たとえば、回収作業にニートやホームレスと呼ばれる無職の人を起用し、社会復帰の一助になるかもしれない。
あるいは、油田ecoマネーの地域通貨の側面を活かし、商店街の活性化や、学生街とお年寄りのコラボレーションも生み出せるかもしれない。
まさに、使用済み天ぷら油が新たな街の潤滑油となるのだ。
ご当地油田はすでに、「横濱油田」「2010かながわ油田」「みたか油田」で始動している。取り組みは一般市民を中心に広がっており、現在130箇所ある油の回収ステーションを、2年後には2.000箇所に増やす目標である。
これらの取り組みを拡げるために、私達ができる参加の方法は簡単だ。
一つは、地域の油の回収ステーションに家で使用した油を持参・郵送すること。
そして、油田ecoマネーとの交換でもらえる地域通貨で買い物をしたり、VDFを給油して車を走らせたり、森を所有して、循環の輪の中に入ってみる。
あるいは、行政や企業、大学、NPOなどの団体であれば、自ら地域で油を集める回収ステーションとしてご当地油田に参加し新たな油田発掘ポイントになること。自身ができなくても、参加できそうなお店や団体にクチコミで「TOKYO油田」の取り組みを伝え、ネットワークの可能性を広げることができればいいだろう。
目指すものは複雑そうだが、一人一人ができることはシンプルである。
一人一人ができることは小さいが、みんなの力が合わされば大きくなる。
日本には実は大油田があった――。
そう世界から注目される日も遠くないかもしれない。
文責:山下ちひろ
※この原稿は、2010年9月末時点のものです。
最新情報は、下記の公式サイトでご確認ください。
※社会起業支援サミット2010 in TOKYOは、2010年10月3日開催。
ご予約・お問い合わせは、下記ブログ記事へ。
http://ccc-action.blogspot.com/2010/09/2010-in-tokyo_11.html
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